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 本当に長らくお待たせいたしました。


 掲載までにたいへん時間がかかってしまい、その間待ちわびておられた読者の皆様に一言お詫び申し上げたいとの著者のお言葉を皆様にお伝えしたいと思います。
 
 最終話は、中島みゆきの「ヘッドライト・テールライト」(”プロジェクト-X”のエンディングテーマ曲)がBGMとして流れていると思いながら、しんみりと読んでください。
 涙もろい方は、ハンカチを忘れずに。

 あなたにとって、これまでのドッジをする子どもたちの姿で最も記憶に残る感動のワンシーンをあげるとしたら・・・?」
 私は、ぜひ全国のドッジボールの指導に携わる方々にお聞きしてみたい。子どもたちのひたむきなプレー、一球にかける情熱、チームが一つになった瞬間・・子どもたちと感動を共有し、「ドッジボールはライフワークのひとつ!」とまでなった方はたくさんいらっしゃるように思う。そして、わたしの感動のワンシーンは・・・

 けやき台小学校職員室の冷蔵庫に、オロナミンCがしばらく常備された2学期(コープカップの2チーム分の参加賞、2位4位の賞品となるとかなりの数!運動会シーズンとも重なり日頃のご愛顧に感謝をこめ?お礼という形でした。もちろん子どもたちからですよ(^_^;))
 日常の学校生活に戻ったのもつかの間、昨年の雪辱をはらすべく篠山のCSRドッジボール大会へ出場した。
 この頃には、ドッジ熱が6年女子にまで広がっていた。「先生、私たちは出られないの!」と一斉にブーイングを受けていたので(※決して彼女たちは、中途半端な気持ちではありませんでした!)チーム数が3~4になり、新たに気合いを入れた所へ大会事務局から「出場希望チームが多数の場合、三田のチームはご遠慮願う」という連絡があった・・(-_-;)。これは行政の関連であり、事務局の方に非はないのだが、大変閉口した。結局、「1チームのみ参加可能です」と連絡があり男女混合の急造メンバーで大会に参加、コープカップ2位4位はだてではなく、メンバーは多数抜けていたものの見事に優勝した。
 初優勝である。昨年準優勝を果たし、あれだけ喜んだ大会である。しかし、子どもたちに、いや厳密に言えばベストトゥエルヴのメンバーに感激はあまりなかったように思う。彼らにとっては、もはや、この大会では物足りなくなっていた。あの夏の熱戦を経験した子どもたちには・・。
 この頃から、子どもたちは理屈抜きで無意識に感じていたのかもしれない。

 俺たちに残された時間はわずかだと。

 私自身を振り返ってみると、まだ学校の教師としての仕事で手一杯で、自分自身にそれだけの余裕がなく、とても継続した練習をしようなどとは考えもしなかった。子どもたちはドッジがしたくてしたくてたまらない。自分たちで集まって、ランニングをしたり外でキャッチボールをしたりと自主練をしていた。しかし、自分たちだけで練習を続けるのには、限界もあった。体育館使用の都合もそうだし、なにより子どもたちはこんな私でも頼りにしてくれていたのだから。

  「先生、ドッジの練習しよう」

 何度も子どもたちに訴えられながらも、私はCSRの大会終了後は、学校や学年の仕事は無論、駅伝大会、フットサルの大会の練習にも奔走した。ドッジだけでなく、他のスポーツにも挑戦しようとがんばる6年生をはじめ他の学年の子どもたちのためにも、そちらを優先せざるをえなかった・・。

 2学期が終わろうとしていた12月、ひょうたんファイターズの平岡監督から、奈良県で開催されるツカモトカップに出場する意志があれば、ベストトゥエルヴを推薦するがどうかと連絡をいただいた。早速Sくんのお父さんに趣旨を伝え、参加する方向で短期間ではあるが練習を開始した。
 その時の子どもたちの喜びようと言ったら・・。7:30からの朝練に数少ない公式ボールを先にとろうと、冬の寒い朝、7:20には行列が体育館前にできている。この頃から本格的に指導の中心として練習に参加してくださった野球一筋のO先生は、数年後懐かしみながらよくこんなことをおっしゃっていた。
 「あいつらとのキャッチボールほど、おもしろいのはなかったなぁ。小学生やいうこと忘れて本気で投げて、向こうも本気で投げてきた」と。
 ツカモトカップで、初めて関西でトップレベルのチームをまのあたりにした子どもたち。決勝リーグにはなんとか勝ち残ったものの、決勝リーグ初戦で奈良のTHE CHAMPIONと対戦、11-1という大差で敗れた子どもたちは何を感じたのだろう。手も足もでない感覚は久しぶりに味わった、そんなハイレベルな決勝リーグを勝ち残り、決勝で鈴鹿ミラクルキッズを破り優勝した兵庫県のひょうたんファイターズをどんな思いで見ていたのだろうか。


 様々な思いを振り返る間もなく、冬休みとなり、3学期。いよいよ最後の大会、クロネコカップとなった。決勝で夏と同じくひょうたんファイターズと対戦、同じような結果で準優勝となり、関西大会の出場権を得る。
 一日一日と子どもたちのドッジは最終章を迎えようとしていた。関西で勝ち残り、ドッジを続ける日を延ばす、つまり優勝か準優勝をして全国に行くことは考えられなかった。関西大会の翌日は三田市の大会。残念ながら出場権を得ることのできなかったトルネードは、三田市の大会を目指して「打倒ベスト!」を合い言葉に、そしてベストは、関西でもう一度自分たちの力を120%出し切るために、それぞれがドッジボールに打ち込んだ。何よりベストもトルネードも関係なく、子どもたちは自分たちがかけてきたドッジボールを最後の最後までとことんやり抜くために、懸命だった。
 鬼気迫るとは言い過ぎかもしれない、しかし私の言葉はまったく必要のない練習であった。中途半端なプレーには自然に子どもたち同士で檄が飛ぶ。ついてこれずに練習を休む仲間も出てきた。しかしそのテンションは下がるどころか高まる一方である。
 そして・・
 明日が関西大会・・
 子どもたちにとって、最後の練習、金曜の朝練・・

 「これで最後なんだぞ!お前らのかけてきたドッジの練習は・・!その声でいいのか、そんなもんでいいのか、お前らのドッジはそんなものか!」

 子どもたちの疲れはピークだったに違いない、声が出ていなかったわけではなかった、それでも黙ってはいられなかった、彼らのドッジはここで始まり、ここで終わるんだと思うと最高の姿を見たかった。

 体育館がふるえた。

 あの声は、忘れない。
 魂の叫び
 そんなことばがあてはまるかもしれない。
 私は涙をこらえるのに精一杯だった。
 涙をためながら、パスアンドゴーを続ける選手がいた。
 キャプテンのSくんだ。
 考えてみれば、彼の「ぼくもドッジでテレビに出たい」の一言から始まった。言い出しっぺとして、必然的にキャプテンとなった。しかし、いざとなったら口べたで思いがうまく表現できない。技術面でも悩み、キャプテンとしてのふがいなさを打ち明けてくれたこともあった。私にもっと厳しい指導をして欲しいと懇願したこともあった。ドッジが好きで好きでたまらないSくん、彼が涙を流すのをこらえ、先頭にたって声を張り上げていた。
 練習が終了し、彼は、堰を切ったように泣いた。涙が止まらなかった。10分後に教室に上がり、教師としての1日が待つ私は、更衣室で泣くのが精一杯だった・・
 朝の会にあがった教室でも彼は机に顔をうずめていた。心配した女子が私に声をかけた。「Sくん、どうしたん?」
 「Sなぁ・・・まっ、そっとしとったってくれ」
 そうしか答えられなかったのをはっきり記憶している。それ以上話すと涙がでそうだったから・・。
 私にとってのワンシーンは、この日のパスアンドゴー、そしてSの涙だ。
 その後も記憶に鮮明に残る感動のシーンはいくつかある。しかし、思うのである、泣きながらキャッチボールができるかと。そこまで思いを持てるかと。
 関西大会での試合内容は覚えていない。終了後、体育館の外で子どもたちに話しながら、泣いてしまったことは覚えている。翌日の三田市の大会は、準々決勝でベストとトルネードが対戦、見事トルネードが悲願を果たした。トルネードはそこで全精力を使い果たしたのか、結果は3位に終わった。しかし彼らにとって価値ある3位だった。
 彼らのドッジは幕を閉じた。


 彼らが卒業し、6年になる。現在のベストトゥエルヴのメンバーは、彼らと丁度入れ替わりにけやき台小学校に入学してきた。未来のベストトゥエルヴを目指し、一緒にがんばる4年生は、彼らがドッジを始めた頃はまだ3歳だった。彼らが始めたドッジボール、それが7年後にもこうして引き継がれている。そんなことを誰が願ったか?誰も願ってはいない。彼らはただドッジがたまらなく好きだっただけだ。
 私が赴任した当初、広いグランドにほんの一握りしかいなかったドッジを楽しむ子どもたちが、みるみるうちに増えていった。ウッディタウン地区の体育振興会が企画するドッジボール大会には、けやき台から毎年大挙として参加し、「けやきはドッジ」のイメージが定着した。彼らが卒業後して2年後には「さんだっこきょうだいづくり」の事業の一環として、中学生の企画運営という市内でも珍しいけやき台校区ドッジボール大会もスタートした。単一校区の大会に、中学生、大人も含めて200人以上の参加者を集める大イベントとなった。
 中2からこの大会の運営スタッフのメンバーとして大人に混じって運営会議から参加し、大会当日の進行、審判長と毎年大活躍だった初代ベストトゥエルヴのメンバーのひとりNくん。彼が200人以上を前に堂々とあいさつした。

 「それでは今日一日、ドッジを楽しんでください」

 そのNくんは、現在押しも押されぬベストトゥエルヴのコーチだ。
 たくさんの卒業生に見守られ、今もベストトゥエルヴはドッジを楽しんでいる。

 (完)

ひょうたんファイターズとけやき台小学校にて練習試合を行いました。
関西大会(東大阪アリーナ)
第1期生卒業ドッジ
第1期生から大向先生に送られた寄せ書き
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